成すも成さぬも 今を楽しめ

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

漫画村問題から考える、出版業界の未来

 なにかと漫画村が話題だが、思うところを少々。


  私は著作権には全く素人であるが、白か黒かで言えばぶっちぎりで黒ということは分かる。お店で売ってるものをネット上でばら撒いたらそりゃあ商売あがったりである。


  だが、「金を払わない奴は漫画を読むな」というのは、漫画界、とくに出版社の経済的構造を考えるならば、ちょっとまずいのではないだろうか。


  そもそも、昔は「漫画 = 紙媒体」であり、出版社が質の担保と流通の両方を担っていた。出版社を通さないものとして同人誌があったが、地理的・金銭的な制約からメジャーにはならなかった。


 しかし、今はインターネット全盛期である。メジャーだろうがマイナーだろうが、全てはワールドワイドウェブの大海原に浮き沈みするようになっているのだ。地理的な制約、金銭的な制約が外れた結果、出版社を通さなくても漫画を投稿することはできるし、書店に出向かなくても名作漫画は読めてしまうのである。(合法)無料漫画サイトについては、今更名前を挙げるまでもないだろう。つまり、現状では「漫画は無料」が当たり前なのだ。


  このような状況の中で、消費者、特に可処分所得の少ない若者に「読みたきゃ金を払え」と言っても難しいだろう。「質があんまりでもいいから、タダで(安く)たくさん読みたい」という層は確実に存在するし、そのような人々は無料漫画サイトや他の娯楽へと流れていくだろう。また、今後も漫画村のような違法サイトは雨後の筍のごとく誕生してくるだろう。


  今、違法サイトをブロックするという泥沼のベトナム戦争に足を踏みいれようとしている政府ならびに出版社は、iTunesが定額サービスを開始した意味をもう一度考え直すべきだろう。一度ネットに流れた情報を消すことはできない。子供たちが学校で散々教えられることではないか。


  では、出版社は泣き寝入りをするしかないのか?  私が言いたいのはそうではない。出版社は沢山強みを持っている。代表的なものを挙げれば、「版権」「資金」「ブランド力」だ。


  まず「版権」。これは大きい。いくら違法サイトで漫画そのものがコピーされようと、その本来の所有権は出版社・漫画家にある。つまりそこからイベントやらキャラクターグッズやアニメ化やら、漫画からの二次展開を行う権利は出版社しか持っていない。某ネズミのキャラクターの会社ではないが、漫画以外でいくら稼ごうと違法サイトには利益は横取りできないのだ。

  

  次に「資金」。出版社は腐っても会社である。だからこそ漫画家を養ってプロの編集を付け、人気が出てきたらコミックスを発売しグッズを売り出しアニメを作成することができる。高度な人材を確保し、大規模な事業を行うには、元手のある方が有利であろう。


  さらに「ブランド力」。ジャンプで連載されている漫画と無料サイトに転がっている漫画、面白そうなのは前者であり、恐らく前者の方が本当に面白いだろう。このブランド力はそのまま集客力にも繋がる。出版社は漫画界のミシュランなのだ。


  以上のような強みをどのように活かせば良いだろう。筆者が布団にくるまりながら1分ほど考えて思いついた例を挙げれば、「小説家になろう」のようなビジネスモデルに手を加えたものが良いのではないだろうか。プロから新人まで門戸を広く開く所までは同じだが、編集が投稿作品を吟味し、面白いと思ったものは書き手が生活していけるだけの給料を払い契約漫画家として囲い込む。人気が出たら二次展開で儲ける。


  あるいは、「アナログであること」を利用するのもいいかもしれない。コミックスには必ず作者のサインが付いてくるとか、パラパラ漫画をつけるとか、紙媒体ならではの付加価値をつけることで「紙の方を買おう」と思わせる (このあたりは同人作家の皆さんが既にたくさんなさっている気もする) 。


  大まかに言って、出版社は生産・加工・流通の6次産業から加工のみの2次産業へと縮小を迫られているような印象を受ける。いずれにしても、出版社はまだまだ業界の重鎮ポストにいるのだから、儲けるチャンスはいくらでもある。ただ、政府と一緒になってルールを作る側に回るのは危険だとも思う。革新を止めた企業は存在として矛盾を孕み、それが弱さに繋がるからだ。


  以上、長々と書いたが、私は面白い漫画が世の中に沢山生まれて、それらを法に触れない範囲でなるべく安く楽しめればそれでよい。関係者の皆さんには是非ともこの困難を乗り越えてもらいたい。