成すも成さぬも 今を楽しめ

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

Game of Thrones を周回遅れで見始める

 "Game of Thrones" というドラマをご存知だろうか。

 欧米で熱狂的な人気を誇る、中世ファンタジードラマである。イギリスが舞台になっている架空の土地で、貴族が王座を取り合うというような内容で、イメージ的には西洋版大河ドラマに近いであろうか。前々から見ようと思っていたので、Stranger Things を見終わったことをきっかけに手を出してみた。

 

 これがなかなか面白い。

 序盤こそ少し退屈だったものの、王座を巡る争いが激化するにつれて、各登場人物の魅力が増していく。まだSeason2の途中だが、更に面白くなっていくことだろう。

 それから、英語の種類が豊富である。完全に聞き分けられるわけではないし、個人の話し方なのか方言なのかはわからないが、RP、ブリストルバーミンガム、ロンドン、スコットランド、アフリカン……色々な英語が聞けるので、「こいつの英語聞き取りやすいな」「もっとはっきり喋れ」など話し方に文句をつけながら鑑賞できるのも面白い点かと思う。

イギリスの訛り参考:

Learn British accents and dialects – Cockney, RP, Northern, and more! - YouTube

 

 ただ、受け入れがたいことがあるとすれば、日本だと間違いなくZ指定の表現が頻出であることだ。登場人物たちはまあまあの頻度でセックスするし、拷問シーンはかなり痛々しい。もちろんそれが作品全体のスパイスになっていることは確かなのだが、現在通学中や学内で見ることが多いので、そういうシーンに出くわすたびに人の目を気にしてしまう。

 

 ただ、今回私が取り上げたいのは、ティリオン・ラニスターという登場人物である。作中で「インプ」「ドワーフ」と呼ばれるこの人物は、所謂小人症であって、軽蔑の対象である。本人もそれを自覚し、序盤では特に、酒と女に溺れる刹那主義者のような描写がなされる。

 しかし、この作品の中では、少なくとも私は彼がもっとも理解しやすい人間なのではないかと思う。一家や血族、名誉や権力を重視する世界観は、明らかに現代とは対比的に描かれている。英雄的なネッド・スタークや暴君的なジョフリー・バラシオンに憧れたり軽蔑したりすることはあっても、自らを重ね合わせることは不可能だろう。一方で、「インプ」はこの世界にあって非常に現代的な態度をとる。すなわち、世の中で尊重されている血族や名誉といった事柄に一定の敬意を払いつつも、やはりアイロニカルな態度を持ち、同時に自分や周囲の生存のために計略をめぐらすである。また、父親を亡くした人物に同情するなど、ヒューマニズム的な一面を覗かせることもある。

 

 現代に生きる私たちは、自らの命を懸けるに値するような「思想」を失ってしまった。かつては一族、名誉、宗教、権力、資本/共産主義だったものは、もはやそれほどの強い力を持たない。私たちは何かに縋ることなく、日々の問題に対処することを求められる。Game of Thrones において、ティリオンはまさに現代人の生き写しである。それでありながら、戦争の激化に伴って、彼の享楽主義的な面は薄れ、代わりに戦略家としての側面が強くなっていく。彼は生き残りのために女を買う余裕をなくしていく。

 

 大きな問題にぶつかったとき、あるいは少なくとも目の前の問題に取り組んでいるとき、皮肉を言う余裕がなくなり、集中を余儀なくされる。この集中こそが、退屈を打ち破り、充実した人生を送る鍵なのではないか。